アメリカにおける学校への情報技術導入の評価方法 日本での適用を目指して
小澤 咲子
1 目的
本論では、学校への情報技術の導入に対する評価について、アメリカで利用されている『An Educator’s Guide to Evaluating the Use of Technology in Schools and Classrooms』(December, 1998)を取り上げ、評価指針、方法、項目などを整理し、予想される効果や留意点について検討する。
また、日本においても盛んに導入されている学校への情報技術だが、それらがどの程度本来の目的を達成したのか、どのような点で効果があったのか、投入された設備や教員向け研修プログラムの成果などの評価はまだ求められていない。が、『平成13年度文部科学省政策評価実施計画の策定について』 (2001.6.4)が発表され、「評価手法の調査研究」が含まれていることから、今後日本においても展開されるであろう評価という観点でこのガイドブックが参考となると考えている。
1.1 ガイドブック作成の背景
アメリカでは、1996年に、21世紀にむけて、すべての生徒が情報技術を取り扱うことができ、情報スーパーハイウェイの教育的な資源にアクセスできることを目指して、次の4つの国家的な情報技術に関する目標が定められた。
・すべての教員と生徒は、コンピュータや情報スーパーハイウェイを活用して必要なトレーニングやサポートを得ることができる。
・すべての教員と生徒は、教室において最新のマルチメディアコンピュータを使うことができる。
・すべての教室が情報スーパーハイウェイに接続されている。
・効果的なソフトウェアやオンライン学習に必要な資源がすべての学校のカリキュラムに統合され、取り残される子供のないことを保証する。
このために、次のようなプログラムが実施された。
* The Technology Literacy Challenge Fund
国が州や地域の教育に関する情報技術の費用を負担し、教育や学習に活用する。
* The Technology Innovation Challenge Grant Program(TICG)
学校において情報技術を効果的に使用するモデルを作成するプロジェクトを支援する。
* The Star School Program
生徒や教員に遠隔地教育の機会を提供するための情報技術の活用を支援する。
* Preparing Tomorrow’s Teachers to Use Technology
未来の教室で教員が効果的に効率的に準備をすることができるための改革を支援する。
* Learning Anytime Anywhere partnerships (LAAP)
次世代の遠隔地での教育やトレーニングを行うための情報技術の改良を目的とする。
1994年The Technology Literacy Challenge Fund (TLCF)および The Technology Innovation Challenge Grant Program(TICG)の制定以来、1996年の情報技術教育予算は3000万ドル(約36億円)、その後増大し、2001年には30億ドル(約3600億円)にも上り、そのうち約3分の2の2000億円が、Eレート・プログラム費用として教育機関や図書館の回線使用料などの援助にあてられる。 (森田、2001年) これらの投資によって、インフラの整備が急速に進み、コンピュータ1台あたりの生徒数はかなり減るとともに、インターネットに接続されている教室が急激に増えてきている。 (図表1-1 参照)
一方、1998年の段階でも、教室において情報技術を快適に活用できる環境が整っていると感じている教員はわずか20%にすぎないことから、今後も継続的にこの活動は進められていることと推察される。
このような状況の中で、日本の文部科学省にあたるDepartment of Educationの中の企画や評価を行う部門 Planning and Evaluation Service(PES) では、連邦からの情報技術に関する投資の成果や目標に対する効果を示すために評価を進めている。
その成果の1つとして、このガイドブック『An Educator’s Guide to Evaluating the Use of Technology in Schools and Classrooms』 (December, 1998) が作成された。このガイドブックは、オンラインで入手でき、すでに40,000部のコピーが使用されていることから、かなり普及しているものと考えられる。
(U.S.Department of Education Planning And Evaluation Service 2000年)
1.2 日本の現状
日本においても、アメリカに遅れているとはいえ、学校における情報技術の導入が始まっている。1994年度に通産省「高度情報化プログラム」の中で教育分野の情報化推進のための具体策として文部省との連携で「100校プロジェクト」が実施された。これは全国100ヶ所あまりの小中高等学校、特殊教育諸学校、教育センターなどにインターネット接続環境を導入し、インターネットを利用した教育・学習の実践活動を行ったものである。この蓄積をうけ、1997〜98年度にかけて「新100校プロジェクト」の実践研究が推進された。1998年度からは「教育の情報化推進事業」、1999年度からは「Eスクエア・プロジェクト」などが行われている。 また「こねっとプラン」「メディアキッズ」といった民間事業も展開されている。1998年度補正予算(120億円)では、より実践的なプロジェクト「教育の情報化推進事業、ラーニング・ウェブ・プロジェクト」が行われた。これは、今後の教育現場の環境変化に応じた教育用ソフトウェアや指導者の育成・支援する環境の整備を目的としており、さらに1999年12月に最終報告が出された各省庁の枠をこえたバーチャルエージェンシーでの「教育の情報化プロジェクト」につながるものである。このプロジェクトでは、2005年度には、すべての小中高等学校からインターネットにアクセスでき、すべての教室、すべての授業において教員および生徒がコンピュータを活用できる環境の整備を目標としている。
(通商産業省機械情報産業局情報処理振興課 2000年9-24p.)
ただし、現在の日本においては、この目標および下表のアメリカとの比較からもわかるように、まだ設備や人材育成の基盤を整備することが最重要課題となっており、それらの評価については検討されていないのが現状である。
図表 1-1 コンピュータ設置台数およびインターネットの接続状況の比較(1999年)
アメリカ
日本
コンピュータ1台あたりの生徒数
6人
15人
マルチメディア対応コンピュータ1台あたりの生徒数
13人
22人
<インターネット>
接続している学校
95%
35.6%
接続している教室
63%
データなし
専用線接続している学校
65%
データなし
インターネットに接続しているコンピュータ1台あたりの生徒数
4人
データなし
すべての教室がインターネットに接続する目標
2000年
2005年
(通商産業省機械情報産業局情報処理振興課 2000 年 31p.)
2 ガイドブックの概要
この章では、ガイドブックの目的、構成、内容概要について整理する。
なお、文末にガイドブックに表記されているページ数を示す。2.1 目的
次のように目的が明記されている。
このガイドブックは、調査や評価についての研修を受けていない教員や地域の取り纏め者を対象に、地域や学校に導入された情報技術や情報技術を利用するプログラムの評価について、評価の基本的な原則や考え方を修得させるとともに、実際に評価を行うためのツールの提供を目的としている。 (iiiページ)
2.2 構成
ガイドブックの構成は次のとおりである。
図表 2-1 構成
目次
ページ数
説明項目
(1) Preface
1 ページ
・評価の必要性
・位置づけ
(2) Overview of Handbook
1 ページ
・ガイドブックの目的
・基本的な質問
(3) Rivers Overview
1 ページ
事例 (Rivers学区)
(4) 各評価ステップ
42 ページ
各ステップごとに
・ 検討内容
・ ワークシート記入例 (事例の場合)
・ ワークシート用紙 (白紙)
(5) 付録
76 ページ
・ 参考資料
・ ワークシート
・ 調査表など
合計
121 ページ
2.3 内容概要
この節では、ガイドブックを構成している各項目について概要をまとめる。
(1) Preface <評価の必要性、位置づけ>
次のように現状を説明することにより、評価についての必要性を最初に認識させている。
各州、地域、学校において、情報技術化プランが数多く作成されているとともに、情報技術が生徒の学習や学習達成度にどの程度貢献しているのかということを把握する必要性も高まってきています。 さらに、これらプランに対する州や地域への投資に対しての評価も合わせて求められてきています。 (iiiページ)
また、次のように位置づけを説明している。
このガイドブックは、Department of Educationにおいて実施しているプロジェクトの中の1つであるthe Technology Literacy Challenge Fund (TLCF)の形成的評価に関連して、American Institutes for Research が The Office of Education Research and Improvement, The Office of Educational Technology, The Office of Elementary and Secondary Education と共同して作成したものです。調査や評価の研修を受けていない人を対象にしたツールであり、ワークシートを使って評価の基本的な原則を示し、地域や学校で評価について概要を理解できるようにしています。ただし、完全な評価をするものではありません。また、教育関係者が評価について学びながらプロセスを経験できる手段を提供することを目指しています。 (iiiページ)
(2) Overview of Handbook
<ガイドブックの目的>
次のように具体的な状況を示し、このガイドブックが地域や学校レベルで、今まで評価をしたことのない人を対象に簡単に評価活動ができるように設計されていることを説明している。
あなたの学校では、新しいコンピュータの購入と教授活動に情報技術を活用するための教員研修について承認を得たとします。これにより地域や学校の情報技術化プランの目標に達成することができると考えられています。 皆、新しい情報技術が導入されることで学校の教育や生徒達の学習が改善されていくだろうと期待しています。
けれども、関係する人々は多くの疑問を持っています。資金の提供者は投資に対して見合う結果がでるのか、学校の管理者は教員が教授活動の中で本当に情報技術を使っているのか、また情報技術が生徒の学習や動機づけに役立っているのか、また、保護者は新しい情報技術が標準テストの点を向上させてくれるのか、地域の管理コーディネータは、教員への研修の効果や生徒の情報技術技能の向上に役立っているのかなど。するとこれらの質問に答えなければいけない人がでてくるでしょう。 それはあなたです! どのようにしたらいいのでしょう。新しい機材を購入し、正常に動作するように調整したり、 一方では教員研修の準備をしなくてはいけません。さて、あなたは様々な興味を満足させることができるのでしょうか? そして、役に立つ結果を出すことができるのでしょうか?このガイドブックは、できるだけ簡単に評価ができるように作られています。調査の経験のほとんどない教員や地域の取り纏め者を対象に地域や学校レベルで使用できるように考えられています。 (1ページ)
<基本的な質問>
このガイドブックでは、ステップに従って評価を進めることができるように、次の基本的な質問を提供している。
@ 「なぜ評価をするのか?」
A 「どこから始めるのか?」
B 「何を質問すればいいのか?」
C 「必要な情報とは何か?」
D 「情報を収集する一番良い方法は何か?」
E 「結論は何か?」
F 「結果についてどのように話し合い、報告するのか?」
G 「これからどうしたらいいのか?」
(1ページ)
(3) Rivers Overview <評価を進めていくための事例>
次のような事例が最初に与えられ、これを使用して各評価ステップの説明に従って評価を進めることで具体例を示している。
Rivers学区(1高校、2中学校、4小学校:中退生徒数増加、標準テストの点が州平均以下)に次のような活動のために20万ドルが投資されました。地区の先生Kathyが“情報技術コーディネータ”に任命され、活動全体を把握し、プログラムの評価も行うことになりました。
でも、Kathyには調査の経験もなく、評価などどのようにしたらいいのかわかりません。
・小学校の図書館にインターネットに接続されたメディアセンターを設置する
(授業中だけではなく放課後も使用可)・地域のすべての教員に次の2段階の夏季研修を実施する(2週間)
−基本的なコンピュータやアプリケーションの操作法
−情報技術を活用した授業の設計法
(2ページ)
(4) 各評価ステップ
前述の基本的な質問=評価ステップにそって構成されている。各ステップには1枚のワークシートが準備され、このワークシートに用意された項目に順次答えていくことによって評価を進めることができるようになっている。
それぞれのステップでは、検討または実施する点についての詳しい説明、Rivers学区の場合のワークシート記述例、記述用のワークシートが挿入されている。
なお、評価の定義、目的、プロセスについては、最初のステップ「なぜ評価をするのか」の後に「ところで評価とは?」という章を挿入し、明確に説明を加えている。
図表 2-2 評価ステップとそのステップで検討または実施する点
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